200万年前、昭島は海だった ― 「アキシマクジラ」の実物化石を見てきました

くじらホールのアキシマクジラ全身レプリカ

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東京の海にはクジラがいます。小笠原諸島や伊豆諸島の海では、毎年ザトウクジラなどが姿を見せます。ところが、東京の内陸、昭島市の多摩川の河原からもクジラの化石が見つかっていることは、あまり知られていません。約200万年前、このあたりは海辺でした。しかもその化石は、のちに新種と認められています。

2026年10月12日、用事があって、その化石が展示されている昭島市の教育福祉総合センター「アキシマエンシス」を訪ねました。ここに来るのは2回目です。入口に展示されている大きな全身レプリカ(全長13.5m!)が圧巻なのですが、今回は地元の多摩川流域市民学会の長谷川博之さんの解説のもと、幸運なことに65周年の実物の化石展示も間近に見ることができました。

60年以上前、多摩川の河原で、親子が見つけた

1961年(昭和36年)8月20日、小学校の先生だった田島政人さんと4歳の息子の芳夫さんが、貝や魚の化石を採りに訪れた昭島市の多摩川の河原で、砂利採取で削られた岸から突き出た骨を見つけました。場所はJR八高線の多摩川鉄橋の少し下流です[1][2][4]。8月28日から9月3日にかけて、田島さんや地元の学校の先生たちが中心となって緊急の発掘を行い、クリーニングと組み立て直しには約1年をかけました[1][2]。見つかったのは、頭骨から尾までのほぼ全身の骨格です[1][3]。

化石が埋まっていたのは上総層群小宮層の中部で、古地磁気の記録から約195万〜177万年前(前期更新世)の浅い海の地層とされています[1][2][3]。岸近くの浅瀬で死んだクジラがすぐに土砂に埋もれたこと、その後の地殻変動で壊されなかったこと、河原に現れてから雨で削られる前に見つかったことなど、いくつもの偶然が重なって、ほぼ全身が残りました[4][5]。

「アキシマクジラ」から、新種 Eschrichtius akishimaensis へ

1963年、国立科学博物館の尾崎博さんらによって「アキシマクジラ」と呼ばれるようになりました[1]。化石は国立科学博物館に保管されましたが、新種として正式に記載されないまま、長い年月が過ぎました。

2012年3月、化石は詳しい研究のため群馬県立自然史博物館に移されます[1][2]。研究を担ったのは、同館の長谷川善和さんの推薦を受けた木村敏之さんでした。木村さんは18歳のころからこのクジラを研究したいと考えていたそうです[5]。

その成果として、2018年1月、日本古生物学会の英文誌『Paleontological Research』で、コククジラ属の新種 Eschrichtius akishimaensis として記載されました[3]。種小名は「昭島の」という意味です。頭骨の骨の形が現生のコククジラと異なり、コククジラ属で初めて認められた化石種です[1][3]。論文は、現生のコククジラにつながる系統とアキシマクジラという少なくとも2つの系統が、前期更新世まで生き残っていたことを示しました[3]。発見から57年目のことでした[1]。翌2019年には昭島市の文化財に指定されています[6]。

65周年記念展示に並ぶアキシマクジラの実物化石
65周年記念展示に並ぶ実物の全身骨格化石
アキシマクジラの実物化石
間近で見られる実物の化石

クジラだけではない、多摩川の河原の化石

アキシマクジラの周りからは、ホホジロザメやメジロザメ属のサメの歯が見つかっています[2]。昭島の多摩川の河原からは、ほかにも魚や貝など海の生きものの化石が出ています[4][6]。

陸の生きものの化石もあります。1999年8月17日、洪水で川底が洗われたあとの拝島水道橋の下付近の河原で、約170万年前のアケボノゾウの足跡化石が見つかりました[6]。アケボノゾウは肩の高さ2mほどの小型のゾウです。当時の昭島周辺にはメタセコイアの森が広がり、アケボノゾウやシカが暮らしていたと考えられています[4][6]。海辺から陸へと移り変わっていく昭島の姿が、河原の地層に記録されているのです。

並べられたアキシマクジラの椎骨の化石
頭から尾へと並べられた椎骨の化石

化石に会える場所

2020年3月に開館した昭島市の教育福祉総合センターは、この学名にちなんで「アキシマエンシス」と名付けられました。入口の「くじらホール」には、全長約13.5mの実物大の全身レプリカがあります[7]。実物の化石は研究のため群馬県立自然史博物館で保管されており、ふだんは一部だけが郷土資料室で展示されています[7]。

現在は「アキシマクジラ化石発見65周年記念展示〜過去と未来をつなぐアキシマクジラ〜」が開かれていて、実物の全身骨格化石を中心に、一緒に見つかった貝などの化石が並んでいます。スマートフォンをかざして、骨の断面や3Dモデルを見ることもできます[8]。実物の全身を見られる貴重な機会です。

アキシマクジラの復元模型
生きていたころの姿を再現した復元模型

なぜ知られていないのか ― 東京に都立の自然史博物館がほしい

東京には、小笠原の島々の固有の生きものから奥多摩の山々、そして多摩川の地層に眠る化石まで、すばらしい自然とその歴史があります。それなのに、昭島でこんな化石が見つかり、展示されていることを、ほとんどの人が知りません。

その大きな要因の一つは、東京に都立の自然史博物館がないことだと私は考えています[9]。神奈川、千葉、埼玉、群馬、栃木など周りの県には県立の自然史系博物館があり、地域の自然を調べ、標本を守り、伝える拠点になっています。アキシマクジラは、およそ50年も石膏で固められたまま保存されていました。ようやく研究のために群馬県立自然史博物館に移され、そこで新種であることがわかり、記載されました[1][2][3]。東京で見つかった貴重な標本を、東京で研究し、東京の人に伝える拠点がないのです。昭島市が自前の施設で化石を守り伝えていることは素晴らしいと思いますが、本来は東京全体の自然とその成り立ちを扱う拠点が必要ではないでしょうか。

発見65周年の実物の記念展示は10月24日(土)までです[8]。レプリカはいつでも見ることができます。ぜひ足を運んでみてください。

施設情報
アキシマエンシス(昭島市教育福祉総合センター)郷土資料室
東京都昭島市つつじが丘3-3-15/JR青梅線「昭島駅」「中神駅」から徒歩約10分
開館:火〜金 10時〜20時、土日祝 10時〜18時/休館:月曜(祝日の場合は翌平日)/入館無料

(渡辺仁)

参考文献・出典

  1. 長森英明(2019)マンホールからのぞく地質の世界4 ―アキシマクジラ―.GSJ地質ニュース,8(4): 86–91.https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol8.no4_p86-91.pdf
  2. 髙桒祐司・木村敏之・長谷川善和(2021)上総層群小宮層から産出したサメ類化石~アキシマクジラとの共産標本~.群馬県立自然史博物館研究報告,25: 49–58.https://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin25_4.pdf
  3. Kimura, T.・Hasegawa, Y.・Kohno, N.(2018)A new species of the genus Eschrichtius (Cetacea: Mysticeti) from the Early Pleistocene of Japan.Paleontological Research,22(1): 1–19.https://doi.org/10.2517/2017PR007
  4. 昭島市「どうして昭島にクジラなの?」https://www.city.akishima.lg.jp/promotion/1010180/1010181.html(2026年10月13日閲覧)
  5. くじらタウン「200万年の時を経て発見されたアキシマクジラは、”4つの奇跡”の賜物」(2023)https://www.kujira-town.jp/news/20230614_20230614/(2026年10月12日閲覧)
  6. 昭島市「あきしま 水と記憶の物語:時代でたどる(自然の記憶)」https://adeac.jp/akishima-arch/top/era/1nature.html(2026年10月13日閲覧)
  7. 昭島市「アキシマクジラのひみつ」https://www.city.akishima.lg.jp/bunka/kujira/1004661.html(2026年10月12日閲覧)
  8. まちプレ「「アキシマクジラ」の化石 発見65周年展 スマホで3D観察も」(2026)https://machipre.net/2026/08/13/29572/(2026年10月12日閲覧)
  9. 美術手帖「都知事選、注目すべき文化政策は? 美術館の25歳以下無料や「都立自然史博物館」の新設も」(2020)https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/22193(2026年10月13日閲覧)

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