キノコが少ない日だからこそ見えてきた、菌類の多様性――長沼公園でキノコ観察会を開催しました

地面のキノコをのぞき込む参加者

2026年10月17日(土)、都立長沼公園(八王子市)で「秋のキノコ観察会」を開催しました。講師は神奈川キノコの会の中島淳志さん。フィールドでは東京きのこ同好会の鈴木会長にも案内していただきました。この観察会は、当センターが進める「ネイチャーポジティブ多摩丘陵プロジェクト」の一環です。

長沼公園はどんなところ?

長沼公園は、八王子市長沼町と下柚木にまたがる都立公園で、1980年(昭和55年)に開園しました。多摩丘陵北部に連なる緑地群の西端にあたり、標高はおよそ90〜190mです[1]。都立多摩丘陵自然公園にも含まれます。

公園全体がクヌギやコナラを主体とする雑木林に覆われています。かつて薪や炭をとるために使われてきた林です。園内には大小8本の沢が入り組み、谷底から尾根線まで、起伏に富んだ丘陵本来の地形がよく残されています[1]。京王線長沼駅から歩いてすぐの場所に、これだけまとまった丘陵の森が残っているのは貴重です。

キノコの「本体」は見えないところにある

雑木林の中で集まってキノコを観察する参加者
雑木林の中で、見つけたキノコをみんなで囲んで観察

はじめに長沼町会館で、中島さんからキノコの基本を教わりました。私たちがふだん「キノコ」と呼んでいるのは、植物でいえば花や実にあたる部分です。本体は土や木の中に網の目のように広がる、ごく細い菌糸です。

キノコの暮らし方には、落ち葉や枯れ枝を分解する「腐生菌」、木と栄養をやりとりする「菌根菌」、ほかの生きものから栄養を得る「寄生菌」があります。キノコが分解してくれるからこそ、落ち葉や枝は土に還ります。

同定にあたっては、傘の表だけでなく裏側(ひだや管孔)が大事な手がかりになります。写真は表・裏・まわりの環境を撮り、1円玉や指を一緒に写して大きさがわかるようにすると良い、とのことでした。

一方で、キノコには見た目だけでは種まで決められないものがとても多い、という話もありました。たとえばベニタケの仲間は種類が多く、種レベルの同定はほぼ不可能とのことです。走査型電子顕微鏡を使っても、DNAを分析してもなお同定できないものもある、と。無理に種名をつけず、「ベニタケ属」「ナラタケ属」のように、わかるところまでで止めておくのも立派な記録です。実際、当日のiNaturalistの記録にも、ベニタケ属やナラタケ属のように属までにとどめたものがあります。

キノコを採ることの影響についての話も印象的でした。地上のキノコを採っても、地中の菌糸が生きていればキノコは減らない、むしろ問題は土を踏み固めたり穴を掘ったりすることだ、という話です。スイスで行われた長期研究でも、キノコを採り続けても発生量や種数は減らず、踏みつけによって発生量が減ることが確かめられているそうです[2]。

雨不足でキノコは異例の少なさ。それでも見どころは多く

9月までは異例の長雨だったのに反して、このところしばらくまとまった雨が降っておらず、当日は林床が乾いていました。今年は9月後半に一斉に出たとのことですが、当日は中島さんが「異例の少なさ」と嘆くほど、キノコらしいキノコはわずかでした。

とはいえ、枯れ木に生えるかたい「硬質菌」や、葉に寄生するさび病菌・すす病菌などの植物病原菌といった、ややマイナーな分類群を中心にじっくり観察しました。硬質菌はふだんの観察会では見過ごされがちですが、長く観察できるものが多く、キノコの表と裏をしっかり撮っておけば同定しやすいのだそうです。

当日記録されたキノコの一部を紹介します(リンク先はiNaturalistの観察記録)。

  • カワウソタケ:サクラの老木の幹に重なり合って生える硬質菌で、サクラを腐らせる代表的な腐朽菌の一つです。学名の mikadoi は「帝(ミカド)」にちなみます。
  • ホウロクタケ:素焼きのなべ「焙烙(ほうろく)」に形が似ています。
  • クジラタケ:よく似たチリメンタケとは、傘の裏の孔の形などで見分けます。
  • ダイダイタケ:枯れ木に重なって生える硬質菌。当日は鮮やかな橙色の株が見つかり、「きれい!」と声が上がりました。
  • サガリハリタケ:枯れ木の表面に薄く広がり、そこから針状の突起が垂れ下がるキノコです。
  • ヒラタケ:本来は晩秋から冬に出るキノコで、地方によっては「寒茸(かんたけ)」とも呼ばれます。ひだに見られる白い粒は「白こぶ病」と呼ばれるもので、線虫がかかわってできます。中島さんによると、ヒラタケは線虫を捕らえて栄養にする「線虫捕食菌」の顔ももっているとのことです。
  • モンパキンの仲間:カイガラムシと共生する、変わった暮らしの菌です。
  • サンショウ類のさび病菌(Coleosporium zanthoxyli):さび病菌の多くは、つく植物が決まっています。
  • カキ角斑落葉病菌(Cercospora kaki)やアオキ星型すす病菌:葉の斑点も、立派な菌類の記録です。
枯れ木の幹に重なって生えるダイダイタケ
ダイダイタケ Phellinus xeranticus
樹幹に段々に重なって生えるカワウソタケ
カワウソタケ Inonotus mikadoi
コケむした倒木の表面に広がるサガリハリタケ
サガリハリタケ Radulomyces copelandii
枯れ枝に群生するウチワタケ
ウチワタケ Microporus affinis

キノコの分布は変わりつつある

中島さんの話で特に大事だと感じたのが、キノコの分布の変化です。中島さんによると、ここ数年でナラ枯れが各地に広がり、枯れたナラにナラタケの仲間が増え、続いて、中島さんが「キノコを食べるキノコ」と紹介した猛毒のカエンタケも増えました。その後、ナラ枯れが一段落するとナラタケの仲間もカエンタケも減ってきており、ニュースでカエンタケが話題になることも少なくなった、というのが今の段階だそうです。

もう一つは、南方系のキノコが増えていることです。当日、ケシワウロコタケを前に中島さんは「20年前にはほとんど見られなかったキノコ」と話していました。温暖化と安易に結びつけることには慎重であるべきとしつつ、分布の変わってきたキノコはたくさんあるとのことです。

では、なぜ分布が変わっていくのでしょうか。中島さんによると、キノコの胞子はとても小さいので、上空の気流(ジェット気流)に乗って遠くまで運ばれ、いわば「どこにでも」たどり着きます。そのうえで、たどり着いた先で実際に定着して生育できるかどうかは、気温も含めたその土地の環境による、という考え方です。いままさに南から分布を広げつつあるキノコもあり、たとえばアミヒカリタケの北限が多摩川を越えるかどうかが話題となっていました。「私たちは、分布の最前線を見ているのかもしれない」と中島さんは話していました。

中島さんは子どものころからキノコを探してきたそうですが、当時は見かけなかったキノコを、今はどんどん見るようになったといいます。資料で「お宝」として紹介されたムラサキウスバタケも、最近よく見るキノコの一つだそうです。新しく増えたキノコがあるなら、逆にいなくなったキノコもあるはずです。ところが、減ったことは、ふだん歩いているだけではなかなか気づけません。「記録を積み重ねていって初めて、『これは減っている』と説得力をもって言える。ぜひどんどん記録してほしい」と中島さんは話していました。

ネイチャーポジティブ多摩丘陵プロジェクトでも、記録を積み重ねていきたいですね。

観察の記録はiNaturalistに

見つけたキノコは、参加者で「iNaturalist」に投稿しました。当日夜の時点で[3]、公園内で投稿された記録は菌類が57件・37分類群です。ただし、これはあくまで速報です。撮りためた写真の投稿はこれからきっと増えていくはずで、下のリンク先は投稿に合わせて自動的に更新されます。

観察会で投稿された記録(菌類のみ)は、こちらから見られます。
https://www.inaturalist.org/observations?nelat=35.641196708&nelng=139.374772927&on=2026-10-17&subview=map&swlat=35.634411351&swlng=139.363790499&verifiable=any&iconic_taxa=Fungi

長沼公園では、iNaturalist上の記録が、観察会の前日までに、菌類について、175件の観察、研究グレード75種以上が記録されていました。今回の観察会の記録は、その蓄積にさらに厚みを加えるものです。

雑木林の道を歩く参加者
雑木林の道を歩きながらキノコを探しました

当日の資料

中島さんに作成していただいた資料「長沼公園きのこ観察ガイド」を掲載します。キノコのからだのつくりや見分け方のヒント、長沼公園で記録のあるキノコが写真入りで紹介されています。画像をクリックすると拡大して見られます。印刷用のPDF(A3、約16MB)もダウンロードできます。

長沼公園きのこ観察ガイド(中島淳志 作成)
長沼公園きのこ観察ガイド(作成:中島淳志)。クリックで拡大

おわりに

キノコ類は、当センターがあまり強くない分野です。それだけに、今回の観察会は非常に有意義なものになりました。東京きのこ同好会の鈴木会長など強力な助っ人のガイドもあり、参加者のみなさんと一緒に楽しく理解を深めることができました。中島さん、鈴木会長、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。(渡辺仁)

次回は10月24日(土)に、都立桜ヶ丘公園で昆虫観察会を開催します。くわしくはこちらのお知らせをご覧ください。

この観察会は、公益財団法人東急財団「多摩川の美しい未来づくり助成」を受けて実施する「ネイチャーポジティブ多摩丘陵プロジェクト」の一環です。

参考文献・出典

  1. 東京都建設局「長沼公園マネジメントプラン」(2026年3月)https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kensetsu/080326kbetsumpnaganuma(2026年10月17日閲覧)
  2. Egli, S. et al. (2006) Mushroom picking does not impair future harvests – results of a long-term study in Switzerland. Biological Conservation 129: 271–276. https://doi.org/10.1016/j.biocon.2005.10.042
  3. iNaturalistの記録数は、長沼公園を囲む範囲(北緯35.6344〜35.6412°、東経139.3638〜139.3748°)で2026年10月17日夜に集計。

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