多摩市の大栗川沿いで外来種タイワンタケクマバチを観察 ― iNaturalistの記録から見る分布拡大

本日(2026年10月10日)、多摩市東寺方の大栗川沿いで、キバナコスモスに訪花している外来種のタイワンタケクマバチを観察しました。同じ場所では、在来種のキムネクマバチも同じキバナコスモスに訪花していました。

私自身がタイワンタケクマバチを見たのは今回が初めてです。せっかくの機会なので、どんなハチなのか、そして市民参加型の生きもの調査プラットフォーム「iNaturalist」の記録から見て、国内や多摩丘陵でどのくらい広がっているのかを、ざっと整理してみました。

キバナコスモスに訪花するタイワンタケクマバチ(多摩市東寺方、2026年10月10日)
キバナコスモスに訪花するタイワンタケクマバチ(2026年10月10日、多摩市東寺方・大栗川沿い)。iNaturalistの観察記録はこちら
同じ場所でキバナコスモスに訪花する在来種のキムネクマバチ(多摩市・大栗川沿い、2026年10月10日)
同じ場所でキバナコスモスに訪花する在来種のキムネクマバチ(2026年10月10日、多摩市・大栗川沿い)。iNaturalistの観察記録はこちら

この記事のポイント

  • タイワンタケクマバチは、竹に巣をつくる外来のクマバチ。2005年頃に愛知県で見つかり、各地に広がっています。
  • iNaturalistの国内記録は2023年以降に急増。関東でも2024年から記録され始めました。
  • 多摩丘陵では今年2026年6月に多摩市と町田市で初記録。多摩市ではすでに5件の記録があります。

タイワンタケクマバチとは

タイワンタケクマバチ(タケクマバチ)Xylocopa tranquebarorumは、ミツバチ科クマバチ属の大型のハナバチです。もともとは台湾や、中国大陸南部からインドにかけて分布しています。

国内では、2005年頃から愛知県豊田市で全身が黒いクマバチが見られるようになり、のちに本種と判明しました[11]。2006年には愛知県と岐阜県で確認記録があります[1][4]。輸入された竹材に紛れて入ってきたと考えられています[1]。愛知県の個体群は、ミトコンドリアDNAの解析から中国大陸由来と推定されています[4]。

名前のとおり竹と縁の深いハチで、枯れた竹に直径2〜2.5cmほどの穴を開けて巣をつくります。屋外の竹垣や竹柵、竹ぼうき、熊手などの竹製品も巣として使われます[5]。愛知県での調査では、主に直径19〜25mmほどの直立した枯れ竹が使われ、青竹は使われませんでした。畑の竹支柱などに営巣して、経済的な被害も出ています[11]。

体長は約20mmで、翅は褐色です[6]。生活史はキムネクマバチとよく似ています。4月に交尾し、雌が単独で枯れ竹に巣をつくって、5〜7月に花粉団子を蓄えて子育てをします。新成虫は7月下旬〜8月に羽化し、そのまま巣の中で越冬します[11]。

キムネクマバチとの見分け方は、次のとおりです。

タイワンタケクマバチ(外来種)

  • 全身ほぼ黒色で、胸に黄色い毛はない。雌は頭・胸・腹とも黒色[6]
  • 雄は顔面が白〜黄色で、胸部の毛は白っぽい[10][11]
  • 巣は枯れ竹につくる[11]

キムネクマバチ(在来種)

  • 胸部の背面が鮮やかな黄色い毛でおおわれる[11]
  • 巣は枯れ枝につくる[11]

性質はキムネクマバチと同様に温厚で、人に積極的に攻撃してくることはありません。ただし、巣に近づくなどして刺激すると刺すことがあります[5]。

国立環境研究所の侵入生物データベースは、影響として次の3つを挙げています[1]。

  • 本種に寄生するダニが、在来種のキムネクマバチにも寄生する
  • 竹に穴をあけるため、竹材の品質が劣化する
  • 竹柵などの利用者を刺すことがある

一方で、愛知県で両種を比べた調査では、2種は同じ花を訪れるものの、競合している様子は見られませんでした。営巣場所も、本種は枯れ竹、キムネクマバチは枯れ枝と分かれているため、生態的に競合する可能性は低いとされています。

ただし、本種に寄生するダニについては、在来の寄生ダニに置き換わる可能性などが懸念されています[11]。

法律上の扱い

タイワンタケクマバチは、外来生物法に基づく「特定外来生物」や「未判定外来生物」には指定されていません[2]。また、環境省・農林水産省が2026年9月11日に公表した「生態系被害防止外来種リスト」第2版の昆虫類にも掲載されていません[3](いずれも2026年10月10日に確認)。

つまり、外来生物法による飼養・運搬などの規制の対象ではありません。

なお、侵入生物データベースには、ミツバチ類が家畜伝染病予防法の指定検疫物にあたることも記されています[1]。

一方で、愛知県では条例に基づく「公表移入種」とされ、県内で野外に放つことなどが禁止されています[1]。

文献に見る国内での分布拡大

2006年の初記録のあと、本種は中部地方を中心に分布を広げてきました。2020年の時点で確認記録が報告されていたのは、埼玉から鳥取までの15府県です[4]。侵入生物データベースでは、国内の移入分布が富山・石川・福井・埼玉・神奈川・山梨・長野・静岡・愛知・岐阜・滋賀・奈良・三重・京都・大阪・兵庫・鳥取・島根・岡山・福岡の20府県とされています[1]。

もっと詳しく:愛知県での拡大速度の推定

愛知県では、2009年に合併前の豊田市全域、2011年には県内全域に広がっています。このことから、1年(1世代)に少なくとも4km以上のペースで分布を広げている可能性が推定されています。ただしこの推定には、調査開始前にすでに広く分布していた可能性や、営巣した竹支柱が人に運ばれた可能性も含まれています[11]。

西日本では拡大が特に速いことがわかってきました。島根大学の研究グループによると、山陰地方では2018年に鳥取市、2021年に島根県大田市で確認されました。

その後は海岸線に沿って西へ急速に広がり、島根県では2024年に調査した10か所の海浜のうち8か所で採集されています。2026年の研究では、山陰地方での拡大が、愛知県で推定された速度(1世代あたり4km以上[11])を上回る可能性が示唆されています[7]。

iNaturalistの記録から見る広がり

では、iNaturalistに投稿された観察記録を見てみましょう。日本国内のタイワンタケクマバチの記録を、2026年10月10日時点ですべて集計しました[9]。

国内の記録は553件で、341ユーザーが投稿しています。このうち、「カジュアル」3件を除いた550件を集計の対象としました。記録がある都府県は25にのぼります。

年別に見ると、2022年までは年に10件前後でしたが、2023年に49件、2024年に94件、2025年に117件と増えました。今年(2026年)は10月10日までで250件と、すでに昨年の2倍を超えています。

iNaturalist上のタイワンタケクマバチ観察記録数(日本、観察年別)。全国の記録数に関東の記録数を重ねて表示
iNaturalist上のタイワンタケクマバチの観察記録数(観察年別)。青が全国、オレンジがそのうち関東(東京・神奈川・千葉)の記録。2026年は10月10日までの集計。

関東の記録は、2024年6月の東京都練馬区が最初です。2025年には神奈川県伊勢原市と千葉県松戸市で記録されました。今年2026年に入ると22件(神奈川県14件、東京都8件)に急増しています。

なお、2018年の研究では、耐寒性と各地の年最低気温の比較から、本種は将来、関東以西の西日本に広く分布し、関東ではさいたま市や前橋市の付近まで広がると予測されていました[11]。

西日本でも拡大が続いています。島根県はiNaturalistでの初記録が2025年で、今年は18件に増えました。四国では、香川県(2025年)、徳島県・高知県(2026年)で初めての記録が投稿されています。鳥取県は文献上2018年に確認されていますが[7]、iNaturalistへの投稿は今年が初めてです。

多摩丘陵では今年(2026年)から記録が増加

多摩丘陵を周辺地域を含めて詳しく見てみます。東京都側では、2024年6月に練馬区で関東初となるiNaturalistの記録があり、今年は8月に世田谷区と瑞穂町でも記録されました。

神奈川県側では、2025年7月に伊勢原市で記録された後、今年3月以降、愛川町、相模原市、厚木市、座間市、海老名市など、相模川沿いの市町から記録が相次いでいます。山梨県東部の上野原市でも、今年8月と10月に記録がありました。

タイワンタケクマバチの観察地点(多摩丘陵とその周辺)。iNaturalistの記録を観察年で色分けし、市区町村の境界とネイポジ多摩丘陵の調査地域を重ねた地図
多摩丘陵とその周辺の観察地点(iNaturalistの記録を観察年で色分け)。細い線は市区町村の境界、茶色の範囲はネイポジ多摩丘陵の調査地域です。同じ範囲をiNaturalistの地図で見る

多摩丘陵では、今年6月から多摩市と町田市で記録が出始めました。多摩市の初記録は2026年6月16日(落合)です。その後、多摩中央公園(6月に2件)、落合(9月)、そして今回の私の観察(10月、東寺方)と続き、多摩市の記録は今年だけで5件になりました。

多摩丘陵(拡大図)のタイワンタケクマバチ観察地点。市区町村の境界、ネイポジ多摩丘陵の調査地域、観察月日のラベルを表示
多摩丘陵の拡大図。破線は市区町村の境界、ラベルは観察した月日で、赤い丸が今回の観察地点です。調査地域内の記録をiNaturalistの地図で見る

iNaturalistで見る限り、多摩丘陵の記録はすべて今年のものです。多摩丘陵は、2024年から記録のある東京都区部と、2025年以降に記録が増えている相模川流域との間に位置しています。どちらの方向から広がってきたのか、あるいは別の経路によるものなのか、侵入経路は観察記録だけでは判断できません。

なお、iNaturalistでの「初記録」は、その地域に初めて侵入した時期とは限りません。たとえば兵庫県では文献上2016年に確認されていますが、iNaturalistの初記録は2023年です[8]。また、近年の記録数の増加には、本種の分布拡大に加えて、iNaturalistの利用者が増えたことも影響していると考えられます。

iNaturalistの記録は、利用者がどこに多く住み、どこで観察しているかにも左右されるため、記録の多い地域が必ずしも本種の多い地域とは限らない点にも留意が必要です。ただ、こうした影響を考慮しても、全国の記録数がはっきりした増加傾向を示し、記録のある地域が年々広がっていることは読み取れます。

一方、多摩市を中心とする多摩丘陵では、多摩市生きもの調査隊やネイチャーポジティブ多摩丘陵プロジェクトの貢献もあって、近年、熱心な観察者が集中して観察を続けており、ほかの地域に比べて調査密度が高いことは明白です。そのため、本種がこの地域に入ってくれば早い段階で記録されやすく、今年の記録の増加は、この地域への侵入状況をかなり明確にとらえていると考えられます。今後、多摩丘陵での記録はさらに増えていくことが予想されます。

キムネクマバチに比べて黒っぽいクマバチを見かけたら、ぜひ写真を撮ってiNaturalistに投稿してみてください。身近な記録の積み重ねが、外来種の広がりを知る手がかりになります。(渡辺仁)

参考文献・出典

  1. 国立環境研究所「侵入生物データベース:タケクマバチ(タイワンタケクマバチ)」https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60530.html(2026年10月10日閲覧)
  2. 環境省「特定外来生物等一覧」https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html(2026年10月10日閲覧)
  3. 環境省・農林水産省「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)第2版」<動物(昆虫類)>(2026年9月11日公表)https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html(2026年10月10日閲覧)
  4. 柴田剛(2020)小野市と明石市でタイワンタケクマバチを確認.きべりはむし,43(2): 55.PDF
  5. 神戸市「タイワンタケクマバチ」(2025年)PDF
  6. 山梨県「タイワンタケクマバチ」PDF
  7. 宮永龍一・清水加耶・小山凜斉(2026)山陰地方におけるタイワンタケクマバチの分布拡大について.ホシザキグリーン財団研究報告,29: 139–142.島根大学学術情報リポジトリ
  8. 近藤伸一(2023)タイワンタケクマバチの生態観察(朝来市・三木市).きべりはむし,46(2): 34–37.PDF
  9. iNaturalist.Xylocopa tranquebarorum の日本国内の観察記録(2026年10月10日取得)https://www.inaturalist.org/observations?taxon_id=502613&place_id=6737
  10. 東輝弥(2023)タイワンタケクマバチ (Xylocopa tranquebarorum) の行動観察.きべりはむし,46(1): 26–27.PDF
  11. 山岸健三・佐々木隆行・加藤真梨奈(2018)外来種タイワンタケクマバチ(Xylocopa tranquebarorum)(ハチ目,ミツバチ上科)の日本における分布拡大と在来種への影響.名城大学農学部学術報告,54: 7–16.AgriKnowledge

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